第1章:建設部門
ワトソン博士 「ホームズ、君の言いたいことは分かったが、実際にどう問題が変わるのかイメージがつかないな。ここに、君が整理してくれた『建設部門』の過去問リストがある。例えば、令和6年度の建設環境や、河川砂防の問題を見てくれたまえ。これらは既に完成された問題に見えるがね」
シャーロック・ホームズ 「完成された? いや、ワトソン君。それは『改訂前』という古いレンズを通して見ているからだ。いいかい、まずは令和6年度(2024年)の建設部門・必須科目Ⅰ-2の問題文を引用してみよう。君の資料にある通りだ」
【証拠品A:令和6年度 建設部門 必須Ⅰ-2(実在の過去問)】
『我が国の社会インフラは高度経済成長期に集中的に整備され建設後50年以上経過する施設の割合が今後加速度的に高くなる見込みであり、急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。…… (1) 老朽化する社会インフラの戦略的なメンテナンスを推進するに当たり、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。』
ワトソン 「うむ、典型的なインフラメンテナンスの問題だ。これのどこが変わるというんだ?」
ホームズ 「この設問(1)だ。従来は『課題を抽出し』で済んでいた。受験生は『点検技術者の不足』や『財源不足』といった一般的な課題を挙げればよかった。だが、改訂後の『問題解決能力』の定義を思い出してくれたまえ。『必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し』とあるだろう?」
ワトソン 「ああ。ということは、問題文自体にこんな条件が加わるのか?」
ホームズ 「その通りだ。おそらく、次のような変化(変異)を遂げるだろう」
【推理:改訂後の予想問題(令和8年度以降)】
『……急速な老朽化に伴う不具合の顕在化が懸念されている。 (1) 既存のインフラ台帳や点検データ、あるいはモニタリング技術等の情報技術を活用して現状の劣化リスクを定量的に明確化した上で、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。』
ホームズ 「見てくれたまえ、ワトソン君。この変化は恐ろしいよ。受験生は単に『老朽化が大変だ』と書くことは許されなくなる。『どのデータを見て大変だと言っているのか?』という証拠(エビデンス)を求められるのだ。 例えば、『BIM/CIMデータによる3次元モデルでの管理不足』や、『AI画像診断の導入遅れによる点検サイクルの停滞』といった、ITとデータに基づいた課題設定ができなければ、その時点で捜査(試験)は行き詰まる」
ワトソン 「なるほど……。単なる知識ではなく、『どうやって問題を診断したか』というプロセスが問われるわけか。では、ホームズ、別の例も見てみよう。令和5年度の河川砂防の問題だ」
【証拠品B:令和5年度 建設部門 必須Ⅰ-2(実在の過去問)】
『近年、災害が激甚化・頻発化し……国民の命と暮らし、経済活動を守るためには、これまで以上に、新たな取組を加えた幅広い対策を行うことが急務となっている。 (4) 前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。』
ワトソン 「これは設問(4)、いわゆる倫理の問題だな。ここは鉄板の解答がある。『公衆の安全最優先』と『法令遵守』だ」
ホームズ 「かつてはね。だが改訂後のコンピテンシーには、『包摂的な(Inclusive)意思疎通』と『文化的価値の尊重』という新しい鍵が含まれている。 防災対策において、ただ堤防を高くすればいいという時代は終わったのだよ。外国人、高齢者、障害者……そういった多様な人々をどう守るか。そして、その土地の歴史や文化をどう残すか。 予想される変化はこうだ」
【推理:改訂後の予想問題(令和8年度以降)】
『(4) 前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、地域住民や多様な関係者との包摂的な意思疎通、及び文化的価値を尊重した社会の持続可能な成果の達成の観点から、技術者に求められる要件を述べよ。』
ホームズ 「この『包摂的』という言葉が入るだけで、書くべき内容は激変する。 『ハザードマップを配布する』では不十分だ。『多言語対応のデジタルサイネージを用いた情報発信』や『高齢者でも直感的に理解できるAR避難訓練の実施』など、ダイバーシティとITを掛け合わせた倫理観を示さなければならない」
ワトソン 「なんと……。防災の技術だけでなく、社会福祉や文化人類学のような視点まで必要になるのか。これは受験生にとっては難事件だな」
ホームズ 「いや、逆だよワトソン君。これはチャンスだ。 これまでの試験では、漠然とした『コミュニケーション』しか評価されなかったが、これからは『誰一人取り残さないための具体的な工夫』が高く評価される。 『現場の職人との対話』だけでなく、『近隣の外国人住民への配慮』や『歴史的景観を守るための合意形成』を書ける技術者が、真の名探偵(合格者)として認められる時代が来るのさ」
(第1回 講義終了)
この記事は、令和8年度適用予定の技術士コンピテンシー改訂内容に基づき、試験傾向の変化を予測したものです。予測が必ず当たる訳ではありませんので、皆さん自分自身で判断してください。
まずは建設部門における「データ駆動型の課題抽出」と「包摂的な倫理観」の変化について予測しました。
次回、第2回は「機械部門:経済性とトレードオフの謎」に焦点を当て、コストや納期だけではない、新しい「多角的視点」の問題文をプロファイリングします。準備ができ次第、お届けします。







