目次
元データは以下『環境省:第六次環境基本計画の概要』
第1回では、第六次環境基本計画が「3つの危機」と経済・社会的課題を背景に、目的を「ウェルビーイング/高い生活の質」 に据え、「循環共生型社会」 というビジョンの下、「新たな成長」 を目指す「総論」を解説しました。
第2回となる今回は、その「新たな成長」を具体的に実現するための「各論」として位置づけられる「環境・経済・社会の統合的向上の高度化のための6つの重点戦略」 と、計画全体の施策体系について解説します。
1. 重点戦略1:持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
これは、第1回で触れた「シン・自然資本」への投資を核とする戦略です 。
- 自然資本への投資拡大:
- 「地域共生型再エネ」の最大限の導入(2050年ネット・ゼロに必要な量の確保、他の先進国と遜色のない水準を目指す) 。
- 陸上・洋上風力発電における環境配慮の制度検討 。
- ネイチャーポジティブ(自然再興)の実現に資する投資 。
- 環境教育の強化や「公正な移行」に資する人的資本投資 。
- 環境価値による高付加価値化:
- 環境情報基盤の整備と情報開示の促進 。
- 製品単位での環境価値の「見える化」や、市場調査・マーケティングといった無形資産投資の拡大を通じ、消費者の行動変容と企業の高付加価値化を「共進化」させる 。
- 経済全体のグリーン化:
- サステナブルファイナンスの推進 。
- 「成長志向型カーボンプライシング構想」の実行 や、税制全体のグリーン化 を通じて、経済システム自体を変革します。
2. 重点戦略2:自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上
国土を単なる利用の対象(フロー)ではなく、価値の源泉(ストック)として捉え直す戦略です 。
- 自然資本を維持・回復させる国土利用:
- 「30by30目標」(2030年までに陸と海の30%以上を保全する目標)の達成によるネイチャーポジティブの実現 。
- 劣化した生態系の再生や、広域的な生態系ネットワークの形成 。
- 自立・分散型の国土構造の推進:
- 地域の自然資本である再エネの活用(地産地消モデルの構築、レジリエンスの向上) 。
- 「自然を活用した解決策(NbS: Nature-based Solutions)」の取組推進 。
- ウェルビーイングが実感できる都市・地域の実現:
- 都市の「コンパクト・プラス・ネットワーク」の推進 。
- ストックとしての住宅・建築物の高付加価値化(省エネ化など) 。
- 美しい景観の保全・創出 。
- ランドスケープアプローチ等の視点を踏まえた、地域の特性に応じた統合的な土地利用 。

3. 重点戦略3:環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
第1回で触れた「地域循環共生圏」を、国民と市場の「共進化」を実践する場として具体化する戦略です 。
- 地域の課題同時解決:
- 地域の自然資本を最大限活用した持続可能な地域(地域循環共生圏)づくり 。
- 「地域脱炭素」の推進 と、地域の自然資本を活用した「ネイチャーポジティブ」の達成 を同時に目指します。
- 無形資産の充実:
- 地域の文化やスポーツを生かした地域コミュニティ・ネットワークの維持・再生 。
- 中間支援組織による実践的支援とその横展開 。
- 地域における環境人材の育成 。
- 地域経済のグリーン化と公正な移行:
- 地域金融のESG化の推進 や、地域の中小企業等への支援 。
- 持続可能な地域のための「公正な移行」の確保 。
- 失われた環境の再生と地域の復興:
- 水俣における「もやい直し」 や、福島における未来志向の取組 など、公害・災害からの再生・復興も本戦略の柱とされています。
4. 重点戦略4:「ウェルビーイング」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現
国民の「暮らし」の視点からウェルビーイングを実現するための戦略です 。
- 基盤的な安全・安心の確保:
- 水・大気・土壌の環境保全 。
- 熱中症対策の推進 。
- 海洋ごみ(プラスチック汚染)対策の推進 。
- 鳥獣対策の強化、外来種対策の推進 。
- 「プラネタリーヘルス」を踏まえた化学物質対策 。
- 心豊かな暮らしのための良好な環境創出:
- 国立公園などにおける「保護と利用の好循環」の実現 。
- 野生生物の保全・管理の推進 。
- ライフスタイルの変革:
- 脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動(「デコ活」) の推進。
- 食品ロスの削減、サステナブルファッションの推進 。
- 自然とのふれあい、ナッジ(行動経済学)等の考え方を活用したライフスタイルの推進 。
5. 重点戦略5:「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装
「新たな成長」を実現するための技術的基盤を確立する戦略です 。
- 需要創出とデジタル技術の活用:
- 「デコ活」等による国民意識の向上・行動変容を通じたグリーンイノベーションの需要創出 。
- AI、IoT等のデジタル技術の活用 。
- 技術開発と社会実装:
- 国民の本質的なニーズ主導での技術的ブレイクスルー 。
- エネルギー効率改善技術の開発・実証 。
- 適応策・緩和策の科学的検討 。
- 「環境・生命技術」の開発・実証と社会実装 。
- 基盤整備:
- 環境分野におけるスタートアップへの支援 。
- 科学的知見の集積や基盤情報の整備・提供 、および国民への共有 。
6. 重点戦略6:環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献
国内の取組と同時に、国際的なルール形成や途上国支援を戦略的に進める戦略です 。
- 国際的なルール作りへの貢献:
- 気候変動における1.5℃目標達成への貢献 。
- 生物多様性における国際議論への貢献 。
- 国際的な化学物質管理の枠組(GFC)を踏まえた化学物質管理の推進 。
- プラスチック汚染に関する国際文書(条約)策定への貢献 。
- 企業活動における国際ルールづくりへの貢献 。
- 途上国支援と国際連携:
- 「JCM(二国間クレジット制度)」による途上国の脱炭素化への貢献 。
- 温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」による各国の削減取組の透明化 。
- 脆弱国に対する「ロス&ダメージ(損失と損害)」支援 。
- 国際バリューチェーンにおける徹底した資源循環 。
- 日本の取組の発信:
- 我が国の優れた取組(公害対策の経験など)の海外展開 。
7. 計画の全体像:「重点戦略」と「環境保全施策の体系」
第六次環境基本計画は、これら「6つの重点戦略」 を最上位の戦略として掲げつつ、その下支えとして、従来の環境政策の柱である「環境保全施策の体系」 を位置づけています。
この体系には、以下の個別分野の施策が含まれます 。
- 気候変動対策(地球温暖化対策計画との連携)
- 循環型社会の形成(第五次循環型社会形成推進基本計画と連携し、循環経済への移行を加速化)
- 生物多様性の確保・自然共生(生物多様性国家戦略に基づき「ネイチャーポジティブ」を実現)
- 水・大気・土壌の環境保全、環境リスクの管理(水俣病対策の推進等を含む)
- 基盤となる施策(環境影響評価(アセスメント)、環境研究・技術開発、環境教育、ESD(持続可能な開発のための教育)、協働取組など)
- 東日本大震災からの復興・創生
これらの施策全体について、2025年度から2028年度まで毎年度進捗状況を点検 し、2029年度に計画の見直しを行う ことで、計画の効果的な実施(PDCAサイクル)を図るとしています 。

第2回のまとめ
今回は、第六次環境基本計画の「各論」として、以下の点を解説しました。
- 6つの重点戦略: 計画の核心的な施策分野として、「経済システム」「国土」「地域」「暮らし」「科学技術」「国際」の6つの戦略が設定されていること 。
- 具体策: 各戦略には、「シン・自然資本」への投資、再エネ導入、30by30、地域循環共生圏、デコ活、国際ルール形成への貢献など、技術士試験の論文にも活用できる具体的なキーワードが多数含まれていること 。
- 計画の体系: これら6戦略の下に、気候変動、循環、生物多様性、環境保全、基盤施策といった従来の「環境保全施策の体系」が組み込まれた構造であること 。
次回(第3回)は、ご依頼のもう一つの柱である、1994年の第一次計画策定から今回の第六次計画に至るまでの、「第一次〜第五次環境基本計画の変遷」 について、社会経済情勢の変化と環境問題の焦点がどのように移り変わってきたかを解説します。







