『インフラ分野のDX アクションプラン』について ー第3回:インフラDXはこの先どこに向かうのかー

元データは以下『インフラ分野のDX アクションプラン』:2022年3月

https://www.mlit.go.jp/tec/content/001474432.pdf

最後に、「今後どのように進められるか」という問いに、少し先の将来像も含めて答えます。PDFの終盤とあとがき部分には、インフラDXを単なる技術導入で終わらせず、「業務・組織・文化・働き方の変革」として続けていく方向性がはっきり書かれています。

まず、基盤として重要なのが「統一的な位置基盤(国家座標)」と「国土交通データプラットフォーム」です。インフラDXでは、ドローン測量、BIM/CIM、道路台帳、河川台帳、都市計画、港湾情報など、多種多様な空間データを扱いますが、これらをバラバラに持っていては真価を発揮しません。そこで、3次元位置を統一的な基準で一意に特定できる座標基盤と、官民のデータを連携させるプラットフォームを整備し、そこにxROAD(道路データプラットフォーム)やPLATEAU(3D都市モデル)といった分野別プラットフォームを乗せていく構造になっています。


今後、インフラDXはこのプラットフォームを軸に、次のような方向で深まっていきます。

行政サービスの側から見ると、
道路・河川・港湾・都市・建築などの各手続きが、分野ごとのシステムではなく、「国交省のインフラ窓口」として統合され、API連携により他省庁や自治体、民間サービスともつながっていきます。
利用者は、どの省庁・どの局の管轄かを意識せずに、オンラインで必要な手続きを済ませられる方向へ進みます。

防災・減災の側から見ると、
PLATEAUと3D災害リスク情報のセットを全国的に整備し、三次元的解析に基づいて避難経路や防災計画を立てることが標準になっていきます。
洪水予測は長時間化・高精度化が進み、危険度分布と組み合わせた「いつ・どこが・どれくらい危ないか」の予測情報が、自治体の避難情報発令や個人のマイタイムラインに直結します。
防災ヘリの映像、自動車の走行データ、各種センサー情報がリアルタイムに統合され、災害時の指揮所では「デジタルツイン上の被災状況」を見ながらTEC-FORCEや重機を配備する、といった運用が当たり前になっていきます。


現場・産業側から見ると、
施工の自動・自律化、遠隔操作、ロボット・ドローンによる点検が広がり、「人が危険な場所に長時間行かないですむ現場」が増えていきます。
BIM/CIMが設計だけでなく維持管理までつながり、建設時からライフサイクル全体を見据えたデータが蓄積されていきます。
これにより、補修更新のタイミングや方法の最適化、CO2排出量や環境負荷の見える化も進み、インフラのLCC管理や脱炭素・レジリエンス向上とDXが一体で進むようになります。

組織・働き方の面では、
長時間労働・過重労働といった建設業の構造的課題に対して、DXをてこにした「働き方改革」を本気で進める必要があります。
資料のあとがきでは、「新3K(給与・休暇・希望)」という表現を使い、インフラDXを通じて現場環境・待遇・キャリアパスを変え、若手の入職を増やしていくことが重要だと明記されています。
また、環境配慮やカーボンニュートラルへの対応、海外へのi-Constructionの展開など、国内外の社会的要請にもインフラDXを通じて応えていくべきだとしています。


ここまで踏まえて、「インフラのDXは今後どのように進められるか」をまとめると、次のような筋になります。

2020年代前半
行政手続きのオンライン化、3D都市モデルと災害リスク情報の整備、洪水予測高度化、情報集約の自動化、建設現場のICT施工・遠隔化など、基盤と代表的ユースケースを一気に立ち上げるフェーズ。2025年度までの工程表は、この段階の「型づくり」に焦点を当てている。

2020年代後半
国土交通データプラットフォームと分野別プラットフォームを連結し、オープンデータと民間サービスの連携を本格化させるフェーズ。地方整備局や自治体レベルでの横展開が進み、3Dモデル・DXツールを使った防災・まちづくり・維持管理が当たり前になる。

2030年代以降
インフラ分野に限らず、エネルギー、モビリティ、都市サービスなどと連動した「広義の社会インフラDX」として、デジタルツイン上で計画・運用・評価を回す社会へ移行していく。その中で、インフラDXは「現場の効率化」から「社会のレジリエンスとウェルビーイングを最大化する仕組み」へと役割を拡大していく。

国交省のPDFは、あくまで2022年時点の設計図ですが、方向性はかなりはっきりしています。


行政手続きは窓口からオンラインへ。
インフラ情報は2次元から3次元へ、クローズからオープンへ。
現場作業は人力中心から、「人+機械+データ」が組み合わさったスマートな現場へ。
組織と働き方は「長時間・根性型」から、「データとテクノロジーを駆使し、生産性と安全とやりがいを両立させるスタイル」へ。

インフラDXは、この流れを強引にでも前に進めるための国交省側の宣言と工程表です。今後は、この枠組みにどれだけ現場・自治体・民間企業が乗り、実際に「便利になった」「安全になった」「働き方が変わった」と感じられるかどうかが勝負になります。PDFを読むときも、「何をいつまでにやるか」だけでなく、「どのような現場や暮らしの変化につながるか」をセットでイメージしてもらうと、インフラDXの全体像が掴みやすくなると思います。

この記事を書いた人

匠 習作

代表:匠 習作(たくみ しゅうさく・本名は菊地孝仁)
開講10年の歴史/総受講者数650名以上/web授業の先駆者

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