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―『学び方の学び方』に学ぶ、技術士論文対策の戦略―
技術士二次試験の論文学習は、半年から一年にわたる長期戦だ。途中でモチベーションが下がり、勉強を中断してしまう受験者も多い。だがバーバラ・オークレーは、「やる気があるときだけ動く」人よりも、「やる気がないときでも動ける」人が成功すると断言している。つまり、成功の鍵は感情ではなく「仕組み」にある。
ここでは、彼女の提唱する「自律心」「習慣化」「自己動機づけ」「再充電」「他者との関係」を軸に、技術士試験における学びの持続力を解説する。
① 自律心は生まれつきではない ― 「行動を選ぶ力」を訓練する
多くの人が「自分は意志が弱い」と思い込んでいる。しかしオークレーは、自律心とは才能ではなく「決断の回数によって鍛えられる筋肉」だと述べる。つまり、自律心は“使えば育つ”。
人は、選択するたびに「エゴ枯渇」と呼ばれる意志力の疲労を起こす。これを防ぐ最も効果的な方法が「決断の自動化=習慣化」である。たとえば、毎日同じ時間にポモドーロ2回分だけ論文構成を練る。朝起きたら机に向かう。これらを“やるかどうか”ではなく“やる前提”にする。
このように「迷わず行動できる仕組み」を作ることで、意志のエネルギーを節約し、本当に考えるべき論理構成や文章表現に集中できるようになる。
② 習慣化は脳の回路を書き換える ― 「ループ」を設計せよ
習慣は「きっかけ(cue)→行動(routine)→報酬(reward)」の三段階で形成される。これを論文学習に応用するなら、次のようになる。
「きっかけ」=決まった時間・場所・ノートを使う。
「行動」=答案構成を書く・観点を整理する。
「報酬」=コーヒーを飲む・進捗を記録する。
このループを毎日繰り返すと、脳は「特定の刺激=学習の開始」と結びつけるようになり、自然と集中状態に入れる。やる気ではなく条件反射的な行動が、最も安定した学習継続の形だ。
オークレーは言う。「脳は努力よりもリズムを好む」。つまり、論文学習の成功とは、情熱を維持することではなく、仕組みを定着させることである。
③ 自己動機づけの科学 ― 「意義・進歩・達成感」を可視化せよ
人が学びを続けるには、「意義(why)」「進歩(growth)」「達成感(reward)」の3つが必要だ。技術士の学習でも、これが崩れると必ず挫折する。
「なぜこの資格を目指すのか」を明確に言語化すること。昇進や転職のためではなく、“専門技術を社会のために活かす”という自分なりの使命を定義する。この「内発的動機」がある人は、どんな困難にも耐えられる。
さらに「進歩の可視化」が重要だ。論文練習を「回数」ではなく「質の変化」で記録する。たとえば、初期は「観点が1つしか出せなかった」が、3か月後には「3つの観点を論理的に整理できた」と記す。これは脳が報酬を受け取る瞬間であり、努力を続けるエネルギーになる。
オークレーは、進歩を感じる瞬間を「ドーパミンの報酬回路」と説明している。小さな成功体験を重ねるほど、学習は快感に変わる。

④ 再充電の技術 ― 休むことも「学び」の一部
「休むことに罪悪感を持つ」受験者は多い。しかし、オークレーは断言する。「学習は、休息によって完結する」。
脳は睡眠中に情報を整理し、断片的な知識を統合する。したがって、寝不足で詰め込み学習をするほど、記憶の定着率は下がる。特に論文対策では、複数の概念を結びつけて論理を構築するため、この統合機能が不可欠だ。
また、日中にも「マイクロ休憩」が必要である。彼女が勧めるのは、短い散歩や瞑想、あるいは風景をぼんやり眺める時間。これが脳を拡散モードに切り替え、行き詰まりを解消してくれる。集中しても成果が出ないときほど、「意図的に離れる」勇気を持つことだ。
⑤失敗との付き合い方 ― 「エラーを恐れず、修正で学ぶ」
オークレーの学習理論の根底には、「失敗は学びの構成要素」という考えがある。技術士試験でも、不合格答案を避けるのではなく、分析素材として使う姿勢が不可欠だ。
「どの段階で論理が飛んだのか」「どの課題設定が抽象的だったのか」「結論に根拠が乏しかったのはなぜか」――これらを自己診断し、次の答案に反映する。このサイクルこそが「メタ認知の実践」であり、単なる復習とは質が違う。
彼女は、「エラーを恥ではなく、神経回路を調整する信号」と捉えるべきだと述べている。ミスのたびに脳は正しい回路を再構築し、精度が上がる。したがって、間違いを恐れない人ほど学習速度が速い。
⑥ 他者を巻き込む ― 「孤独な勉強」から抜け出す勇気
『学び方の学び方』の終盤では、「他者との協働」が学習の生産性を高めると述べられている。技術士の論文は個人戦に見えて、実際には“対話的な思考”がものを言う。
他者に自分の答案を見せ、意見をもらう。自分が他人の答案を添削してみる。この双方向のやり取りが、理解を深める最短ルートである。人に説明することで初めて「自分がわかっていない部分」が明確になる。
また、仲間の存在は心理的支えにもなる。学習仲間がいると、「自分だけが苦しいわけではない」という安心感が得られ、継続率が格段に上がる。孤独を避けることが、最終的に自律を保つ最良の戦略である。
⑦試験当日 ― メタ認知と「俯瞰する自分」
オークレーは、試験本番の心構えとして「メタ認知的視点」を勧める。つまり、自分を上空から観察するもう一人の自分を持つことだ。
緊張や焦りを感じても、「今、自分は緊張しているが、それは自然な反応だ」と客観視する。この一歩引いた視点が、感情の暴走を抑え、冷静な判断を可能にする。
論文試験では、答案構成を整える時間配分が鍵になる。「今どこにいるか」「残り時間で何を書くべきか」をメタ的に監視することができれば、焦りに流されず、安定した筆致で書き切ることができる。
⑧戦略的学習者になる ― 「学び方のPDCA」を回せ
オークレーが本書の最後で説くのは、単なる努力家ではなく**「戦略的学習者」**になることだ。
戦略的学習者は次の3つを意識している。
① どの方法が効果的だったかを評価し、改善する。
② 目的に応じて学習法を切り替える。
③ 学びの過程そのものを観察し、最適化する。
技術士試験でも、「暗記中心の勉強」から「戦略的な学び」への転換が求められる。過去問の分析、模範答案の模倣、自己答案の評価――これらを“実験”として扱い、自分専用の最適解を見つけていくことが、最終的な合格への道である。

⑨結論 ― 学び方を変えれば、結果が変わる
『学び方の学び方』が伝えているのは、誰もが「学び方次第で自分の限界を超えられる」という事実だ。オークレー自身、数学が苦手だった学生から世界的な工学教授へと転身した。
彼女の成功は特別な才能ではなく、「脳の仕組みに合った学び方」を徹底的に実践した結果である。技術士試験も同じだ。論文力とは、知識量の勝負ではなく、「思考・記憶・集中・自律」の総合力で決まる。
ポモドーロで集中を鍛え、拡散モードで構想を練り、思い出す学習で定着させ、メタ認知で自己を修正する。この学びの循環を日々回すことこそ、論文力を飛躍的に高める唯一の道である。
最後に、バーバラ・オークレーの言葉を借りよう。
「誰もが、自分の脳を鍛え直すことができる。
それを妨げるのは、能力の限界ではなく、学び方を変えようとしない習慣だけだ。」
技術士試験とは、単なる資格試験ではない。
それは、自分の思考を設計し直すための最高の学びの舞台である。
“努力”よりも“設計”を変えよう。学び方を変えれば、結果は必ず変わる。
『学び方の学び方』アチーブメント出版 (2021/2/1)








