技術士筆記試験に役立つ『論理が伝わる書く技術』

相手が読める文章を書く 『論理が伝わる書く技術』

講談社 (2012/11/21)のブルーバックスです。
著者は、倉島保美氏

技術士試験において求められること、それは多岐に及びます。
曰く論理的思考力ですとか、問題解決力、特に技術士試験の論文ともなれば技術士に求められる、
コンピテンシーがそこに記されていなければいけないのは言うまでもないことです。

しかし、論文である以上その前提としてもっておくべき技術があります。
それが、読ませる技術。
そしてさらにその手前に存在するのが、読むことのできる文章を書く技術なのです。

筆者の倉島氏は、その伝える技術のコアをパラグラフライティングとしています。

世界標準の書き方を学ぶ

本書の目的は、世界標準の文章技法であるパラグラフ・ライティングを学習することにあります。
パラグラフ・ライティングは、論理的な文章を書くための、世界標準の書き方です。パラグラフは、レポートや論文のような論理的な文章に適した考え方だからです(なぜ適しているかは、本書に詳しく説明してあります)。欧米では、このパラグラフ・ライテイングを中心とした論理的な書き方を、大学1年生のときを中心に1年以上にわたって勉強します。

パラグラフ・ライティングは、学習して初めて習得できます。パラグラフとは何かを、辞書で調べただけで書けるようになるわけではありません。だからこそ、欧米では、1年以上にわたって勉強するのです。日本では、学校教育でパラグラフを正しく指導していないので、日本人のほぼ全員がパラグラフで文章を書けません。パラグラフ・ライティングを学習しない限り、論理的な文章、世界に通用する文章を書くのは、まず不可能と言っていいでしょう。

最も基本である『最後まで読んでもらうため』のテクニック

今回紹介する『論理が伝わる世界基準の書く技術』は一体どんな本かといえば、実はとても初歩的なものです。
もし、論文というものに、その完成度においてランクがあるとするならば、
その一番下のランク『最後までなんとか読ませることができる』という部分に特化したハウトゥです。
と言ってしまうと、なにかレベルの低い本のように感じるかもしれませんがそれは違います。
というのも、論文を書く上で、この、最後まで読んでもらう、飽きさせない、疲れさせない、投げ出させないという技術を身に着けている人は本当に少ないからです。
しかもこれは、内容が高度、つまりきちんとした至高と論理が密になるほど難しくなってくるものです。
今回紹介する本にはその基本となる技術がしっかりと書かれています。
繰り返しますが、そのキーワードとなるのが副題ともなっている「パラグラフ・ライティング」です。

複雑なものを組み立てる上で最も近道は「テンプレ」

これは文章だけの話ではありませんが、複雑なものを組み立てる上で最も簡単な方法はテンプレートです。
つまり、決められた雛形に沿って、決められた天順で作成していくのが最も簡単であることは、
技術士を目指す皆さんには体感でわかっていることだと思います。
そして、この本で紹介する『パラグラフ・ライティング』こそ、そのテンプレート。
ざっくりとその内容を要約するならば、パラグラフつまり文章のひとかたまりを1パラグラフとし、
その内容をワントピックとして構成していく方法、となります。

また、その1パラグラフの構成を単純な2部構成とすることで簡素化。
次に、その1つのパラグラフを部品として多層的に文章を構築していこうという、
かなり簡単で、しかも実践に基づいた設計図のテンプレようなものだと考えれば間違っていません。
つまり、このテンプレさえ覚えておけば問題ないということです。

テンプレは書きやすいと同時に、読みやすい。

テンプレの良いところ、それは書きやすいだけではなく、読みやすくもあるという点です。
これもまた文章だけの話ではありませんが、工業製品においても、
広く普及したテンプレがあるものは作りやすいだけではなく消費者の利便性も兼ね備えています。

誰もが簡単にコンビニのおにぎりを開けることができ、説明書を見なくてもカップラーメンを作れる。
このテンプレの効用こそが、この本における論文のテクニックの肝です。
文章の達人であれば、自分のペースで文章を書き、人を引き込んで話さない力を持っています。
しかし、一般人はそうではありません。
コンビニの食品工場に努めているのは一流の和食の職人ではなく、カップラーメンを作っているのは凄腕の中華料理人ではないですよね。
それでも、誰もが簡単に楽しめるものを提供できているのは、このテンプレの効用。
そして、この本を読めばその効用をしっかりと時間できます。

読み飛ばしてしまうべき本

乱暴な言い方ですが、『論理が伝わる書く技術』という本は、読み飛ばしてしまうのが最も正しい使い方の本です。
というと、なにかできの悪い本のように思われるかもしれませんが、実はそれこそがこの本の持つ効用を端的に表しています。
まず、この本のすべての文章が、この本で提唱するパラグラフの集合体で出来上がっています。
そして、そのパラグラフというのが『パラグラフの要約プラス補足説明』という形式で成り立っているのです。
つまり、1つのパラグラフの冒頭、本の中では太字で書かれている「要約」部分だけを読み、
そうでない部分を完全に読み飛ばして読み進めていっても、内容がきっちり把握できるというわけです。
これは、大げさではなく、かなりしっかりと内容が把握できます。
一度体験してみてほしいと思う、この本の最も大きな長所です。

論理形成において重要なのは『思考の塊』

ロジカルシンキング、つまり論理的な思考において重要なのはきっちりとエッジのある思考の塊です。
思考の塊とは、言い換えれば、論理形成を行う上での材料であり、過程であり、結論ともなる論理の形成材料のこと。
これがあやふやだと論理は形成できませんし、この表現が曖昧だと相手に論理は伝わりません。
この本で紹介するパラグラフというもの、実はそれが、一塊の思考です。
論理的思考は、よくブロックを積み木のように重ねていくというモデルで説明されたり、
チャートを使って四角をつなげていくような形で表現されますが、いわばパラグラフこそが1つのブロックであり四角。
もっといえば、ダンボールの表に『何が入っているのか』を貼り付けたようなものだと考えてもいいでしょう。
要約というラベルを付けたダンボールを、ラベルが見えるようにして積み重ねていく。
こうすることによって、積む人間も、またそれを紐解く人間にもわかりやすいですし、
積む際にも、また紐解く際にもいちいち中を確認してから開けるという手間が省けます。

あとは論理形成の作法をそこに応用する

一口に論文と言っても、入試の小論文、大学の卒論、そして技術士試験の論文では求められているものが違います。
ですから、そこで必要となるロジカルシンキングの方法は、
その論文に適した方法を取るのが最適であり、大まかには共通項はあってもその使い分けは重要です。
しかし、このパラグラフを用いた論文作成術のいいところは、どんな論理形成であっても応用のきく「テンプレ」だという点です。
つまり、この方法を抑えてしまえば、あとは論理的に思考ができさえすれば論文はスッキリ書ける。
言い換えれば、自らが目指す試験のタイプに応じた論理的思考を磨くだけで論文対策ができるということです。
もっと言えば、論理的思考ができる、もしくは技術士試験の論文に求められる内容についてしっかりとした認知があるなら、
もうあとはこの本で文章の書き方を学ぶだけともいえます。
ぜひとも手にとって、読んでほしい一冊です。

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